希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン

希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン


希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン 希望の構想―分権・社会保障・財政改革のトータルプラン
岩波書店 岩波書店 神野 直彦
¥ 1,995

脱「格差社会」への戦略
財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書 566)
三位一体改革と地方税財政―到達点と今後の課題
人間回復の経済学 (岩波新書)
「希望の島」への改革―分権型社会をつくる (NHKブックス)

■「ほどよい政府」の構築を目指して―「三つの政府」というヴィジョン 評価5 日付2007-11-26

 はじめに、本書を読み解くにあたってのキーワードは、「三つの政府」体系であり、具体的には「中央政府」「地方政府」と並ぶ「社会補償基金政府」である。少々耳慣れない機関名だが、国民経済計算(SNA)上の概念でもあり、端的に言って、社会補償基金はその歴史的形成過程を振り返ると、「生産の『場』における自発的協力に基礎づけられた政府」(神野直彦『財政学(改訂版)』有斐閣,07年)と規定され得る。
 
 この社会補償基金政府を加えた「三つの政府」論を軸として、神野直彦・東大教授と若き研究者たちが財政社会学的な観点から、地方分権改革、年金・医療等の社会保障改革、税財政改革などに関するトータルデザインを示し、画期的な構想を盛り込んでいるのが当書であり、特に、政治家の皆さん方には、与野党を問わず、是非とも目を通していただきたい書物であると考える。

 とりわけ、昨今の税制論議を見聞きするとき、同書が指摘、提起するような本質的な議論が抜け落ちている思いがする。すなわち、「選挙の谷間」の年に消費税引き上げを画策する与党や政府税制調査会(政府税調)の“姑息さ”はさておき、消費税を「社会保障財源の中核」(11月20日、政府税調答申案)とする前に議論すべき事項が本書で摘示されている。

 先ず、日本の消費税における「帳簿方式による仕入税額控除」(本書)及び当該方式に伴う「小売業者の手元の残る益税」(同)の不透明性等を解決し、少なくとも当書のいう「インボイス(納付税額票)方式」を導入し、信頼性を担保すべきなのだ。次に、より根元的な議論だが、政府間の社会保障に係る役割分担と税収配分の問題であり、この課題に対して当書は、前出の「三つの政府」論に基づき、秀抜かつ精明な解答を与えてくれる。

 最後に、私は「希望の構想」研究会を立ち上げ、次いで「希望の構想」推進協議会(会議)を設立し、「ほどよい政府」の構築を目指して欲しい、と願わずにはいられない。

■希望を宿し続けるために 評価5 日付2006-11-25
青春時代を送った90年代後半、
多くの識者達が市場経済の「活力」礼賛の声を送る中で、
その荒波に勇気を持って対峙し、
繰り返し「市場原理主義」の暴走に対して警告を発していた
ごく一部の学者達がいた。

私は両者に接したが、
裂け目に気づかないふりをする礼賛の合唱よりも
根本的な問題を掴もうとする警告の叫びのほうが
切迫した現実感を持っているように思えた。

私の直感は当たったのだと思う。それも最悪の形で。

私たちは、繰り返された警告
(この本の著者はずっとそれを言い続けていたはずだ!)を聞かず、
「活力」に魅せられ続け、自らの家を打ち壊してしまったのではないだろうか。

わずかな経済成長と引き換えに遺されたものは、
個人・地域間の格差の拡大と、それを省みることを蔑ずみさえするような
疲弊した社会だったのではないか。
自ら命を断つまでに追い込まれた人々が溢れる絶望の社会に、
誰が自らの愛しい子を産み落とそうとするだろうか。

本書は、こうした問題を解決するための
できる限り体系的な社会改革のプランを提示したものだ。

もちろん、問題を一挙に解決するための「魔法」の書ではない。

しかし、絶望に押し流されず戦い続けてきた著者らが
十年の歳月を掛けて世に訴えて来た思想の集大成は、
絶望の残骸の前にたたずみ、途方にくれている私達に、
「現実を諦めることなく戦う」ことの尊さを教えてくれる。
■当然のことが斬新に聞こえる,それが日本の問題? 評価5 日付2006-11-19
わたしも含め,多くの人びとが税の負担に口を閉ざしてきた。
代わりに求めてきたのは歳出の切り詰めや節約だ。
その結果は,所得格差,子供たちの自殺,教育の荒廃,
地方公務員や政治家のモラルの低下・・・社会は悲鳴をあげている。
子供たちに自慢できない社会を私たちは作ってしまった。
でも,それは政府の責任だけではないだろう。
節約に目を奪われて問題を見過ごしてきた私の責任でもある。

政府の責任は?そのための私たちの負担は?
こんな「当然のこと」を本書は問いかける。

本書は,不安の源−年金,医療,地方自治,税制,国の借金−
に関する「当然のこと」を,財政学の泰斗と若手の研究者が
斬新な切り口で,そして情熱的に論じている。
極端な議論もある。しかし,それは暴論ではない。かえって小気味いい。
私たちの社会の将来に深刻な現実と希望の光を示してくれる一冊だ。

■待望の書 評価5 日付2006-11-18
 日本社会の行く末に,漠たる不安を抱くものは多い。その「不安」の大部分が,バブル崩壊後の経済運営の失敗と,度重なる政治家の汚職に由来することは疑いない。現在では,多くの国民が政府への不信任を表明するだけでなく,政府自体が政府の無能を宣伝している状況である。このような中で,構造改革路線=「小さな政府」が多くの支持を取り付けたのも,当然であったといえる。

 しかし,「小さな政府」がもたらした結果を冷静に観察すれば,われわれは時代の舵を切り間違えてきたのではないか,という疑念が生じる。「小さな政府」は,われわれの生活を豊かにしたのではなく,むしろその逆の状況を作り出しのではないか,と。本書は,財政再建のかけ声のもとに「小さな政府」を闇雲に追及することが,「市場における強者に,社会の舵取りを委ねる邪な試み」であると喝破する。事実,所得格差は急速に拡大し,社会問題化している。市場経済の論理である競争原理によって社会を編成しようとする「小さな政府」=「絶望の構想」は,われわれを格差社会という出口の見えない「歴史の迷路」へと追い込んできたのである。

 それでは,このような社会危機を克服するためにはどうしたらよいか?本書は,中央政府による現金給付を軸とした福祉国家を,地方政府による現物給付を軸とした「三つの政府体系」に再編成し,ほころびた社会的セーフティネットの張り替えの必要性を強調する。資本が容易にフライトしうるグローバル化時代にあって,資本と労働への重課を前提とする所得再分配国家は立ち往生してしまったからである。ここで,「三つの政府体系」とは,ナショナル・ミニマムを保障する中央政府,対人社会サービスを担う地方政府,所得保障を行う社会保障基金政府というように,各政府間の役割と責任を明確化する戦略である。われわれに身近な地方政府の役割が重視され,社会保障基金が「政府」として位置付けられていることから理解できるように,「三つの政府体系」は,「国民の『参加』を可能にする政治体系を構想し,参加民主主義にもとづいて,財政を有効に機能させる構想」(p.26)である。

 本書の各章では,「三つの政府体系」の枠組みの下で,地方分権,社会保障,税制といった問題が,相互に関連付けられながら論じられている。本書の特徴は,各章でなされる政策提言を,「小さな政府」=「絶望の構想」による「切り捨て分権」,「切り捨て福祉」,「貧者への重税」とちょうど対をなすように,「生活保障のための分権」,「生活保障のための福祉」,「公正な税負担」としてデザインしていることである。そして,これらの改革を進める最大のポイントは,4章で論じられる「資産・負債管理型国家」の提案である。この提案によって,現在の巨大な政府債務は管理可能であることが示され,財政再建至上主義に陥ることなく,セーフティネットの張替えに財政を十全に活用できることが保証されているからである。

 年金・医療の持続可能な制度設計は可能か?消費税増税のみに傾斜することなく,公平と効率を調和させる租税制度は可能か?「小さな政府」に疑問を抱く全ての人にお薦めしたい。暗く冷たい歴史の迷路を照らし,われわれを導く「希望」の光明がここにある。

 

 
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